紙と鉛筆と弁理士
- Shintaro Onikura
- 2023年8月1日
- 読了時間: 2分
特許事務所に勤める上で、所長と折りが合わないと地獄という話を聞いたことがある。
私の場合、幸運にも所長にはとても可愛がってもらった風がある。
私の中で、あの所長は一種のカリスマ弁理士であったように思う。
70代中盤という年齢を感じさせない記憶力、声の質、頭のキレの良さ。
何より枠にはまらない自由な発想。
中間処理であれ、クレーム作成であれ、特許調査であれ、
どんな仕事であっても、そこには意外な発想に基づいた工夫があった。
「いつもただクライアントを驚かせたくて、そればっかり考えてるんだ」
この言葉はいまだに頭に残っている。
そんな所長は、パソコンが使うことができない。
机の上には、いつも紙と鉛筆が置いてあった。
紙はいらなくなった用紙の裏紙の束がバインドされていて、
一枚ずつ丁寧にめくって鉛筆で書き込んで仕事をされていた。
そして興味深かったのがパソコンを使う我々よりも仕事が早い。
悩む時間はほぼない。
しかし資料は一字一句ゆっくりと丁寧に読み込む。
読み込んで少しだけ考えたと思ったら、すぐに手が動いていた。
出戻りはほぼない。
相談に行くと必ず、紙に鉛筆で書きながら説明してくれた。
半分は目と目を合わせ話す、残りの半分は筆談というスタイル。
紙に文字を書くというのは安心感を与えるようだ。
この業界は頭の良い優秀な方が多い。
仕事の早い人も多い。
それでも当時の私にとって、その時の所長は圧倒的な存在感があり、カリスマ弁理士であった。
そして今でもまだ追いかけている。
仕事をしていている時に、ふと所長の仕事のスタイルを意識している自分に気づくことがある。
そんな時、
あーそうだ、仕事ができるようになったのは自分の努力だけではない。
今の自分の仕事力というのは、過去に自分を指導をしてくれた先輩たちのノウハウの蓄積でもある。
そう考えると感謝の念が湧いてくるというお話。

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